LEDの力率改善付きドライブ回路

LED照明も25W以上のものはPFC(力率改善回路)が要求されています。LED照明は原則的には1次2次間の絶縁が不要であり、簡単な回路でかつPFC付きが要求されます。LEDドライバではスイッチング電源のように大電力ではなく、蛍光灯の電力程度のものが多くコストもそれなりの安価を要求されます。そしてこの電力で、力率改善をするには電流不連続モード(DCM:Discontinuous current mode/Discontinuous conduction mode)、又は、電流臨界モード(BCM:Boundary current mode/CRM:Critical current mode )による力率改善回路が適しています。DCMは常に一定の周波数で一定のパルス幅でスイッチング素子のMOSFETのゲート信号を入れれば入力電流を正弦波にでき、パルス幅も周波数も一定で、入力電圧の変化と、LEDの順方向ドロップの温度変化に対してパルス幅を変えれば良く、制御回路は比較的簡単にでき、低コストのLEDドライバには適しています。一方、BCMではインダクタまたはトランスの1次電流が零になったときを検出してスイッチング素子のMOSFETに一定幅のゲート信号を入れれば、入力電流は正弦波になります。この、トランス又はインダクタの電流が零になったときを検出してゲート信号を入れるので、ディスクリートで作ると制御回路が複雑になりますが、現在はBCM用のICが低コストで入手でき、かつ零電流検出も簡単にできます。

LEDドライバーではスイッチング電源と違って、出力に商用周波数のリップルがあっても余り問題がありません。LEDランプが100Hzでちらつくのですが、100Hzの周波数が人間の目にとっては早いため、チラツキをほとんど感じることができません。しかし、負荷のLEDは電流によって光度が決まるので、供給した電力で平均電流がどの程度になっているを検出して制御する必要が有ります。電流検出にはMOSFETんの電流を検出する方法やLEDの電流を検出する方法がありますが、LEDの電流を検出する方法の方が安定し、この場合は、抵抗が最も安価なのですが、電流検出の抵抗を入れる場所がメインスイッチのMOSFETのソースや制御回路と共通にできないときは、フォトカップラーなど何らかの方法で絶縁して検出しなければなりません。制御回路のレベルと電流検出のレベルが共通のレベルにできると絶縁無しで更に簡単化できます。

さて、スイッチング電源ではACラインの力率改善回路とDC出力の間は安全規格上必ず絶縁しないと使えない用途ばかりだったのですが、LED照明では絶縁する必要が無く、スイッチング電源では使われなかった図1の反転フォワード回路が使われます。この回路はMOSFETのソースと制御回路と負荷のLEDが同じレベルにできる為、LEDの電流を検出する方法の中では制御が簡単で、かつ、他の回路に比べてホットエンドの部分が少なく、ノイズの放射が少なくできるメリットが有ります。そこでこの回路についてスイッチング電源の解析に使われるシミュレータ「SCAT」を使って解析してみたいと思います。図2がシミュレータ「SCAT」用の回路図です。図1の基本回路に出力電流を安定化するフィードバック回路を追加し、入力電流波形を描くための電流検出抵抗(Ri)を追加しています。フィードバックは電流検出の抵抗(Rsh)の電圧を検出して、制御しています。シミュレータの各素子は、図3がLEDの等価のダイオード(LED)で、白色のLEDを数十個シリーズに接続されることを考えて、ダイオードの順方向ドロップを60Vとして使っています。図4はMOSFET(Q)の定数で、標準の定数に、時比率を時比率=0.4で設定しています。図5はPWM制御の定数で、MOSFET(Q)の時比率を制御し、LEDの電流検出は直列にシャント抵抗(Rsh)の1Ωを入れて基準電圧のVerf(0.4V)と比較して制御しています。そして時比率は0.3~0.5の範囲で動作させています。この範囲で入力電圧AC90~265Vに対応できます。その他の定数として、電源(Vac)はAC100V50Hzを、スイッチング周波数は100kHzにしています

この回路で「Analysis」「transient」から「continue」を何回か繰り返し安定になった所で「update」して、4000サイクル解析した波形が図6の波形です。各波形は「ave」(平均値)でプロットしています。波形は入力電圧と入力電流とコンデンサ(C1)の電圧とLEDの電流波形です。この波形で入力電流は綺麗なサイン波になっています。ここで入力電流を高調波分析をするには、この波形の状態から「Control Panel」の「output」窓の順番を「1:Ri:I:ave」「2:Vac:V:ave」の順番にして「PF」をクリックしてから「FFT」をクリックすると図9のような高調波分析が出てきます。基本波が251mA流れていて、第3高調波が8.55mA流れ、その他の第2高調波と第4以上の高調波は1mA以下です。また、力率はPF=99.88%、総合歪率はThd=3.4%と出てきました。入力電流はかなり正弦波で高力率になっています。LEDへの出力電流は100Hzのリップル電流を多少含んだ電流になっています。また、入力電圧をAC230Vにすると図7のような波形になります。コンデンサ(C1)の電圧も高くなるのでコンデンサ(C1)のリップルも減り、LEDの電流ノリップルも減っています。図8はLEDの電流検出を遅くした例です。コンデンサ(C2)を100uFにして遅くすると入力電流は更に正弦波になり、PF=99.98%、総合歪率はThd=1.6%となりましたがLEDの電流は100Hzのリップルがかなり大きくなりました。

PFCのスイッチングの波形は100Hzで変調されているので、その位相によって波形が変わってくるので3箇所を拡大しました。スイッチング周波数での波形を見るには、「Analysis」「waveform」から「continue」を何回か繰り返し安定になった所で「update」して「waveform」で再び1000サイクルの波形を出して90度、30度、10度の波形を観測しています、図10が入力交流電圧の位相角90度近辺の波形、図11は位相角30度近辺の波形、図12は位相角10度近辺の波形です。出力平滑インダクタ(L2)は比較的大きなインダクタンス(1mH)のものを使っているので常に電流連続モードになっています。0.5mH位にすると、出力電流は臨界モードになります。この図で 「Gq」 はMOSFET(Q)のゲート信号で固定周波数でほぼオン幅一定で動作します。「Vq」 はMOSFET(Q)のドレイン電圧、「Iq」 はドレイン電流、「Id1」、「Id2」、「Id3」はそれぞれダイオード(D1、D2、D3)の電流、「IL1」、「IL2」はインダクタ(L1、L2)の電流、「Iri」は入力抵抗(Ri)の入力電流です。

動作の期間は3つの波形ともに3つに分けることができます。
期間1 : QがオンしてL1にエネルギーが蓄えられている期間。また、C1のエネルギーがD2を通ってL2にエネルギーを蓄えながら出力されている期間。このためQがターンオンしたときQの電流はL2の電流値からスタートします。またこの期間はQがオフして終了します。
期間2 : L1のエネルギーがD1を通して放出されC1を充電している期間。L2のエネルギーがD3を通って出力されている期間。この期間はD1の電流が止まって終了します。
期間3 : L2のエネルギーがそのままD3を通って負荷に供給し、D1の電流が止まってVxの電圧が零になっている期間。この期間はMOSFET(Q)のゲート信号が止まって終了します。

期間1でMOSFETがオンしている期間の入力電流波形(Iri)は三角波でそのピーク値は入力電圧に比例するので、入力電流の平均値は入力電圧に比例することになります。

次に出力電圧(出力電流)から必要なインダクタンス(L1)を計算します。
入力電圧の瞬時値をEiとし、ゲート信号のオン幅時比率をDとすると、ピーク電流Ipは
  Ip=Ei/L1*D/f
となるのでインダクタ(L1)に蓄えられる電力(P)は
  P=1/2*L1*Ip^2*f=1/2*(Ei*D)^2/(L1*f)=1/2*(Ei*ton)^2*f/L1

この電力がそのままLEDに出力されます。従って出力電流(Io)は
  Io=P/Eo=1/2*(Ei*ton)^2*f/(L1*Eo)  

リアクトル(L1)の電流が不連続電流モード(DCM)でないと入力電流は正弦波にならないので臨界条件を計算すると、その条件は
  Vc1*(1-D)=Eo*D
  Eo=Vc1*D

以上の式より
  D=(√(Eo^2+4*Eo*Ei)-Eo)/(2*Eo)

時比率(D)はこれ以上大きくすると入力電流が正弦波にならないことになります。
Ei:正弦波のピーク電圧
Eo:出力電圧

このEiが最大のときの最大電力(P)は
  P=1/2*L1*Ip^2=1/2*(Ei*D)^2/(L1*f)
となります。この値は、50Hzのピークの電圧のときの電力なので、正弦波の1サイクル平均した出力電力(Po)はこの半分になり
  Po=P/2=1/4*(Ei*D)^2/(L1*f)

この式から、出力電力が決まっているときのインダクタ(L1)の大きさは
  L1=E1^2/(8*f*Po*Eo)*(√(Eo^2+4*Eo*Ei)-Eo)^2
になります。

この値より大きいとパワーが取れなくなるので、この値以下のインダクタンスに設定します。これで電流不連続モードになります。これ以外の部品は
(1) コンデンサ(C1)が大きければ大きいほど出力電流の100Hzのリップルが少なくなり安定します。
(2) 出力平滑インダクタ(L2)は小さいとMOSFET(Q)のピーク電流が増加。
(3) 出力平滑コンデンサ(Co)はスイッチング周波数のリップルを減らす役目。
(4) 負帰還の信号応答が遅ければ遅いほど入力電流は正弦波波形に近くなるが、入力変動には応答できなくなり、LEDの100Hzリップルが増える。

コンデンサ(C1)には入力から入ってきたエネルギーを反転型コンバータでコンデンサ(C1)に蓄積し、このコンデンサ(C1)の電圧からフォワードコンバータ(降圧コンバータ)で出力を出しています。そのため降圧コンバータの入力電圧(Vc1)が安定していれば出力電流が安定しているわけです。しかし、コンデンサ(C1)の電圧には100Hzのリップルが乗っているので、降圧コンバータの出力を安定にすると図6のように力率改善回路が二の次になり入力電流の歪が少し悪くなり、パルス幅を一定にして力率改善回路を安定にすると図8のようにコンデンサ(C1)のリップルがLEDへ流れてしまいます。
入力電流波形は、この回路はMOSFETのソース電流を検出して一定にして2次側の電力を一定にします。しかもこのときPFC動作もかねているので非常に簡単な構成の回路になります電流波形は

になるのでVac/Eoをパラメータにしてピーク電流を1にしたときは左図、電流値の比率を縦軸にした時の波形を右図に示します。このときは入力電圧が低くなると波形が正弦波に近くなると共に電流実効値が入力電圧に逆比例して増えます。

この回路は整流するときは電解コンデンサインプットのブリッジ整流器で整流します。そのため電解コンデンサの突入電流でヒューズが切れ易いので定常の実効電流値に比べて大きな電流値のヒューズを入れる必要が有ります。このためスイッチング素子の溶断特性とヒューズの溶断特性の選び方が難しく、溶断特性を小さくすると、経年でヒューズ溶断事故が発生し、溶断特性を強くすると発煙発火事故が発生し易くなります。